薄暗いパブで日本人の男の人が歌っている。わたしはステージのそばで、好きな人と一緒にビールを飲んでいた.その好きな人、と言うのは、恋人とかではなくて、わたしが好きだなぁ、とおもっていて、相手もそれなりにすきでいてくれるんだろうなと感じる程度の関係という設定。
ステージの前には、友達、と言うほど近くはないけれど、あったら挨拶をする程度の日本人の女の子がいた。
わたしの好きな人、と言う設定の彼は、ビールを力なく飲み干すと、もうかえるよ、といって席を立った。実はとっても寂しかったのだけれど、わがままを言える立場でもなく、また、その人がここのところモーレツ二忙しくて疲れている、と言うのを知っていたから、おとなしく、おつかれさま、という。その人はぎゅーっとハグをしてくれて、わたしはうれしくて涙がでそうになる。
その日とはハグをくれたあと立ちさり、わたしはその中途半端な友達っぽい女の子と話しながらビールを飲んでいた。
ふ、と、気づくと、例の彼がまだパブにいることに気づいた。
パブの奥に小さなキッチンがあって、わたしはおみおつけをつくりはじめた。酔っ払って帰ってくると必ず汁物が食べたくなるという自分の習慣なのだけれど、それだけではなくて、疲れているあの人に、あったかいおみおつけ、日本の味でホットしてもらいたかった。
あらかじめとっておいた自慢のお出しを温めて、茸をたくさん切った。
おみおつけたべる? とききにバーのほうにもどると、バーは真っ暗で、さっきまであんなにたくさんいた人が誰もいなくなっている。
ふと気づくと、バーはいつの間にか業務用の巨大キッチンになっている。そこに例の彼と、例の日本人の女の子の二里だけがいて、それぞれが手にお皿を持っている。お皿にはシンプルでおいしそうなパスタが盛ってあって、二人で食事をしようという所らしい。
笑顔を作って、おみおつけたべる? と聞きたかったのだけれど、顔が歪んでしまっているのが自分でも分かった。彼は、曖昧な返事をしたけれど、例の彼女は「もちろん! いただく!」と元気に答えてくれる。ふと、コンロのほうに目をやると、フライパンの上に一人分のパスタが残っている。あれは、彼ではなくてその子が、わたしも多分いるから、と多めに作ったものに違いなかった。
わたしはおみおつけを作りに自分の小さな小さなキッチンに戻ってこんにゃくを切り始めた.涙が出そうだけれど、こらえて自分に言い聞かせた。彼はわたしにとって何でもないんだ、なんでもないんだ、なんでもないんだ、こんにゃくを切りながらそうやってずっと言い聞かせていた。
でもあまりの悲しさに目が覚めた。目が覚めても、体に悲しみがまとわりついて離れなかった。
西暦2008年11月17日
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